◆ノブ仲澤念願のヴォーカル・アルバム完成◆
立教大学ビッグバンドのトロンボーン奏者、コンサート・マスターとして活躍後、高校英語教師をつとめ乍らジャズ・ヴォーカルの勉強に打ち込んできたノブ仲澤が、今回念願の自身の歌唱アルバム「LOVE」を完成させた。
ノブ仲澤(本名仲澤信明)とは、彼が立教大学ニュー・スウィンギン・ハードのコンマス時代から親しく付き合い、1980年、彼の立教バンドが山野楽器主催の大学ビッグバンドコンテストの最優秀校に選ばれた際の審査員の一人でもあった私は、近年の彼がジャズ・ヴォーカルに異常な程の熱情を注いで研鑽を積んできた状況を知悉するだけに、我がことのような喜びに堪えない。しかもレコーディング全般の指揮を、彼の同窓(1学年後輩)でポニー・キャニオンの音楽制作部署に長らくつとめた山内毅が担当して音響技術の粋をつくしているので、彼のヴォーカルと演奏のサウンドが双方共に非常にクリアーにバランス良く再生されて、あたかもライブで目の前できいているような臨場感を覚える。演奏陣のピアノ・トリオ(田中菜緒子P、伊藤勇司B、山田玲Ds)は若手の精鋭揃いで、ゲストに高名なベテランの中村誠一(Ts)を迎えて、各曲のムードを際立たせている。仲澤のヴォーカルの初録音としては、理想的な布陣だったと思う。大体日本人男性のジャズ・ヴォーカルというものはナマ易しいものではない。アメリカの男性歌手と比べた場合、英語の発音、声の音色、声量、フレージング、ジャズ的センス全てにおいて彼らの水準に達するのは容易ではない。その点を自覚し乍ら尚、彼がヴォーカルに専念する意図は奈辺にあるのか。そんなことを考え乍ら、このアルバムに耳を傾け始めたのだが、繰返し聴く中に、次第にヴォーカルとサウンドの一体感が極めて快く響くようになって、夫々の歌曲のもつ意味、それは音楽の訴える普遍的なLOVE(愛)であることを印象付けてくれた。そのものズバリの唄「L-O-V-E」がアルバムのオープニングに歌われ、タイトルにもなっている。
◆演奏者と編曲者について◆
ヴォーカルにとって最も大切な演奏者は、前述したように卓越した若手が揃った。更に各曲のアレンジを担当した山口あやも、国際的に活躍する才人である。
田中菜緒子(ピアノ)
福岡県生まれで、桐朋学園大ピアノ科でクラシックピアノを習い、在学中にブルガリア国際コンクールで1位受賞。その後ジャズに転じ、高名ライブハウスでリーダー・ライブ。2013年上海・台湾に遠征。2015年、Mr.Childrenのアルバムに参加。2017年キングレコードよりアルバム「I Fall In Love Too Easily」をリリース。ジャズでは、山口真文、安ヵ川大樹、岡崎好朗、大坂昌彦、井上陽介、北川潔ほかと共演。久留米ふるさと大使として郷土のために活動。クラシックで鍛えた明快なタッチと指さばきを生かした淀みなく美しいフレージングが全篇を際立たせている。
伊藤勇司(ベース)
1991年大阪に生まれ千葉県に移住、仲澤が教師をつとめた県立富里高校に入学しジャズオーケストラ部に入団、指導顧問の篠原正樹(Tp)にジャズを師事、独学でベースを始める。在学中来日したベースのRodney Whitakerに出会い衝撃を受け、同氏の教える米加の大学メンバーとのジョイントやモントレーの次世代フェスティバルにゲスト出演して腕を磨く。2013年東京で本格的活動を始め、自身のトリオやEniGmAなどのリーダー・ライブを始め、有名グループに参加、2018年には椎名豊トリオのメンバーとして世界的ドラマー Herlin Rileyとの共演を果す。本アルバムでも全篇リズムを軽快にスウィングさせ、随所に張りのあるソロを展開する。
山田玲[あきら](ドラムス)
1992年鳥取県生まれ。アマチュア・ドラマーの父の影響を受けてジャズに親しみ、高校卒業後上京し、猪俣猛、本田珠也、Gene Jacksonに師事、18才よりプロ活動を開始。2012年前田憲男トリオ、2016年大西順子トリオに参加。2019年渡辺香津美トリオで北京Blue Note出演。同年国際フォーラムの「EAST MEETS WEST」にWill Lee(B)率いるバンドで参加し、Chris Parker(Ds)とのツインドラムをつとめる。映画の劇伴やCMへの参加、著名歌手の伴奏も多い。本アルバムでは、ブラッシュとスティックを巧みに使いわけて歌手のバックをスウィングさせ、又ドラム・ソロを効果的に挿入している。
ゲスト:中村誠一(テナー・サックス)
収録7曲中の4曲にゲストとして、テナー・サックスの卓越したソロ・プレイを挿入した中村誠一は、1947年東京生まれの大実力者。若くして山下洋輔と共演し、ジョージ川口コンボに参加するなど第一線で目ざましい活躍を続け、洗足音大教授として後進の指導に当たる。豪放な音色と流麗なフレーズで曲趣を盛り上げている。特にラストの「SEND IN THE CLOWNS」のソロは絶品に値する。
山口あや(アレンジャー)
千葉県生まれ。3才からクラシック・ピアノ、15才から声楽を学び20才で渡米。バークリー音楽院でヴォーカルを修学。帰国後、成田を拠点に千葉、東京でジャズ・トリオやソロ弾き語りの活動を開始。2009年よりアメリカのインディーズ・レーベルからアーティスト名Adyaでアルバムやシングルを配信。2014年よりヴォーカル・スクールを開業し、インストラクターとしても活動中。
*ジャズ評論家 瀬川昌久氏によるアルバム「LOVE」のライナーノーツより